文庫 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方
20016年8月に出版された『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』。
「ワーキングメモリ」と「潜在記憶」という脳のメカニズムから、仕事のミスが起こる仕組みを解き明かし、ミスのなくし方を解説したこれまでになかった本として、ロングセラーとなっています。2019年には図解版も出版されました。
本書の内容は単行本とほぼ同じですが、新型コロナ感染拡大によって、大きく働き方が変わった状況も勘案し、一部加筆修正しています。
ますます情報があふれ、将来への不安も増す中、注意は奪われ、過去の記憶にとらわれやすくなっています。今ほど「ワーキングメモリ」「潜在記憶」の有効活用が求められる時代はないとも言えます。
あなたの日々の情報処理を支えている「ワーキングメモリ」。そしてあなたを実質上、動かしているとも言える「潜在記憶」。これらがあなたの仕事、さらには人生にどのような影響を与えているのか? これをちゃんと知っているか知らないかで、仕事も人生も大きく変化します。
本書を手元に置いて、少しずつでも日々読み、できることから実践する中で、仕事のミスを減らす、なくすだけではなく、あなた自身を見つめなおし、仕事、人生に大きな変革をもたらします。
著者: 宇都出雅巳
出版社: 三笠書房(知的生き方文庫)
発売日: 2019/4/1
目次
1章 メモリーミス
1- 人はもともと「忘れる生き物」
2- メモリーミスの主犯格は「ワーキングメモリ」
3- ワーキングメモリの容量はとても小さい
4- ワーキングメモリの源は「注意(アテンション)」
5- 「よし覚えた!」は勘違い?
6- ワーキングメモリは増設できない
7- 「忘れないぞ!」ではなく「忘れる」という前提に立つ
8- メモリーミス対策の基本=メモする
9- 最強のメモ術は「あなたがいちばん気楽にできるもの」
10 – 筆記具のいらないメモ術 → 外部記憶補助
11 – なぜ将棋のプロは棋譜を覚えられるのか?
12 – 脳にやさしい「素早く・ざっくり・くり返し」読書術
13 – 「あれ、どこに置いたっけ?」をなくすには
14 – 「忘れてはいけないのに忘れやすい」人の名前の覚え方
15 – 日本の面積 =「サメに乗ったマラソンランナー」!?
2章 アテンションミス
1- 人は「眼」ではなく、「脳」で見ている
2 – しっかり見ようとすると、見えなくなる
3 – スマホが机にあるだけで脳の働きが悪くなる
4 – 悩めば悩むほどミスが起こるワケ
5 – 「ミスするな!」という注意がミスを引き起こす?
6 – シンプルなフレームワークがあなたを「デキる」人にする
7 – なぜ「基本の徹底」が大事なのか?
8 – 書けば書くほどミスは減り、考えもまとまる
9 – シンプルなチェックリストがミスをなくし、命を救う
10 – 「すぐやる」ことで、ミスは減る
11 – マルチタスクとシングルタスク、どっちが効率的?
12 – ゾーンのポイント① 決まった動作が集中に導く
13 – ゾーンのポイント② ゾーンに入りやすい環境
14 – ゾーンのポイント③ やることを分解・具体化する
15 – ゾーンのポイント④ 仕事は難しすぎず・易しすぎず
3章 コミュニケーションミス
1 – コミュニケーションはキャッチボールではない
2 – 記憶は常に勝手に思い出される
3 – 人は知らないうちに自分の記憶に動かされている
4 – 思い出す記憶を変えるだけで人間関係が楽になる
5 – 「意識の矢印」がコミュニケーションミスをなくす
6 – 「質問は短ければ短いほどいい」科学的理由
7 – 仕事を覚えたころこそミスに注意!
8 – デキる人は相手に「意識の矢印」を向けている
9 – 「意識の矢印」を相手に向ける究極のコツとは?
10 – コミュニケーションミスを絶対なくす方法
11 – 聞くべきは言葉の「答え」よりも言葉にならない「応え」
12 – 相手がいるから一人になれる → 「意識の矢印」がもたらす発見
13 – 短い時間で核心に入る聞き方 → 「事柄」から「人」へ
14 – 「で、あなたはどうしたか?」 → ユークエスチョン
15 – 人間は6つの階層でできている
第4章 ジャッジメントミス
1 – 脳には2種類の思考回路が存在する
2 – 「速い思考」がジャッジメントミスをもたらす
3 – 少しの言葉の違いが相手の答えを左右する
4 – 潜在記憶があなたの判断を左右する
5 – 感情が揺さぶられるほどジャッジメントミスは起こる
6 – 「思い出しやすい」=「よく起こっている」という誤解
7 – 評価基準の違いがジャッジメントミスを招く
8 – 「自分の判断は正しい!」と思い込みたがる脳の性質
9 – 「だから言ったのに!」のウソ → 後知恵バイアス
10 – ジャッジメントミスの特効薬も「意識の矢印」
11 – モノが売れないのはジャッジメントが原因?
12 – それは「事実」? 「意見」? この問いかけがミスを防ぐ
13 – 潜在記憶のワナから逃れるシンプルな方法
14 – 「嘘も百回繰り返せば本当になる」は本当
15 – 子曰く、「ミスを犯しながら、改めないのがミスである」
はじめに
「あっ、すっかり忘れていた!」
「おっと、うっかり見落としていた……」
「そうなんですか!? 勘違いしていました」
「なんで自分はあの案を選んだんだろう?」
これまであなたは仕事でどんなミスをしたことがありますか?
またはどんな失敗をしかけたことがありますか?
あるビジネス情報サイトが行ったアンケート調査では、「仕事でやりがちなミスランキング」の上位は次のようになっています。
1位 入力ミス・書き間違い 160人
2位 やるべきことを忘れる 69人
3位 確認不足・見落とし 55人
4位 連絡・報告漏れ 22人
4位 作業・操作ミス 22人
6位 思い込みで仕事をすすめる 20人
7位 見間違い・聞き間違い 17人
(複数回答/対象:女性301名、男性199名/2021年ビズヒッツ調べ)
本書を手に取って、「仕事のミスをなくそう」というあなたには、なじみのあるミスもあるでしょう。なかには、昔のミスの記憶を思い出し、ミスした自分を責めている人がいるかもしれません。
そんなあなたに、まず知っておいてもらいたいことがあります。
それは、これらのミスが起きてしまうのは、あなたの注意力や記憶力、コミュニケーション力、あるいは判断力が、ほかの人より低いからではないということです。
実は、そもそもわれわれの脳自体が「ミスを起こしやすいメカニズム」になっているのです。
しかもそれは、「忘れた!」というミスに限らず、そのほかのミスも脳の「記憶」にほとんどの原因があります。あなたはそのことを知らないがために、ミスを起こしてしまっているだけなのです。
「経験が少ない、または能力が足りないからミスをするだけでは?」という指摘もあるでしょう。たしかにそれもありますが、必ずしもそうとは限らないのです。
むしろ経験が豊富、または能力があるからこそ犯しやすいミスもあります。中堅やベテランになれば自然とミスが減るわけではありません。逆に増えることもあるのです。
人は自分の脳を過信しすぎかもしれません。
たとえば、あなたは自分の脳がいかに忘れやすいかを知っていますか?
また記憶は固定化されたものではなく、常に変化していることを知っていますか?
もしくはあなたが、「すべてをしっかり見ている(聞いている)」と思っていても、実際にはあなたが見たい(聞きたい)ように見て(聞いて)いることを自覚していますか?
もっと言えば「完全に自立した自分」などありえず、「自分の判断」というものは、実は夢物語にすぎないことを知っているでしょうか?
脳は思いのほか頼りになりません。その脳に対して知らず知らずに(悪)影響を与えているのがあなたの記憶であるということが、最近の脳科学、認知科学の研究で急速に明らかになってきました。
こうした事実を知らないままだと、今後も記憶の仕業でミスを犯す危険があります。
いくら記憶力や注意力、コミュニケーション力、判断力を鍛えようと思っても、脳のメカニズムを知らずにがんばっていたら、ほとんど効果はないのです。
少し驚かせてしましたが、逆に言えばあなたが脳のメカニズムを正しく理解し、それを踏まえたうえミスが起こらないような対策を打ちさえすれば、ミスのほとんどは防げるということです。
本書は、仕事のミスを以下の4つにわけ、それぞれのミスが起こるメカニズムとミスを防ぐ基本対策を解説していきます。
① メモリーミス(忘れた!)
② アテンションミス(見落とした!)
③ コミュニケーションミス(伝わっていない! 聞いていない!)
④ ジャッジメントミス(判断を間違えた!)
さらに、単にミスをなくす基本対策だけでなく、上司や同僚、取引先から「すごい!」と言われるための応用編として、”マスターへの道”も用意しました。
この本は、とくに画期的な仕事術を紹介する本ではありません。
これまでさまざまなビジネス書で紹介されてきた王道テクニックや、上司や先輩から耳にタコができるほど指摘されてきたアドバイス。それがいかに脳のメカニズム上、有意義なことであるかを説明し、これまで以上に納得していただいて、「理解」だけではなく「実践」してもらうことを目的としています。
さらに言えば、本書を通じて仕事のミスと向き合うことで、「本当のあなた」と向き合うきっかけになってほしいと願っています。
本書は、2015年夏に出版された拙著『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』を、コロナ禍によるオフィス環境や対人関係の変化なども踏まえて加筆修正し、文庫化したものです。
ますます情報過多の中、スマホにはあなたの注意を奪おうとする魅力的なアプリであふれ、ミスはさらに起きやすくなっています。
ぜひ、本書を活用し、ミスをなくし、よりラクで楽しい毎日を送ってください!
宇都出雅巳
おわりに
本書を通してわれわれの脳がいかにミスを起こしやすいか、そして、意識のする、しないにかかわらず、常にミスを起こしていることを見てきました。
いま、あなたは仕事のミスについてどのような感想をお持ちでしょうか?
「絶対なくさなければならない」という気持ちから、「なくせないんだ」という気持ちになっていれば、本書の目的は達成されたと言っていいでしょう。
「じゃあこの本のタイトルは嘘なの?」と思われるかもしれません。
でも「ミスはなくせない」という事実を受け入れることが、仕事のミスをなくすための唯一の道なのです。
誰もミスを起こしたいと思っている人はいません。また、ミスを起こしている最中に、「私はミスを起こしている」と思っている人もいません。
仮に「間違っているけれど、これでいこう」と思っている人でも、そうやることが正しいと思っているわけです。
「ミスした!」と気づくのは、いつも後になってからです。
今起こしているミスが何であれ、自分自身はそのことに気づかないというのが、ミスの厄介なところです(他人のミスはよく見えるのですが……)。だとしたらミスはしないと信じ込むより、ミスはするものだと素直に認めればいいのです。
われわれは世の中が不確実で予測不可能なことをよく知っているのかもしれません。
だからこそ確実なものにすがりたくなり、すべてわかっていると思いたくなる。
確信をもって断言してくれる人についていきたくなる。
ミスを認めず、自分の正しさを信じたくなる。
変化が激しく、多様さが増すなかで、それはますます強まっている気がします。
しかし、ミスを認めないとそれはさらに大きなミスとなって跳ね返ってきます。そしてあなた自身、薄々その事実に気づいていたかもしれません。
本書では脳のメカニズムにまでさかのぼって、4つのミスについて徹底的に向き合ってもらいました。本書をちゃんと読んだ方なら、「ミスはなくせない」とミスを受けいれて、仕事のミスを絶対なくすためのスタートラインに立たれたはずです。
最後に、これからミスをなくそうと取り組んでいく過程で、ミスが起きたときにぜひ考えてもらいたいことがあります。
そのミスは「間違い」なのか、「違い」なのか?
ミスは自分が想定したものとの「違い」が生じたときに発生します。
もちろんそのなかには避けなければならない「間違い」もありますが、新たな可能性の扉を開く「違い」もあるはずです。
「失敗は成功の母」
「失敗などない、そこには学びがあるだけだ」
という言葉に象徴されるように未来につながる気づきがあるかもしれません。
また「みんなちがって、みんないい」という詩の一節もありますが、そこには協力、協創の可能性が見えるかもしれません。
とりあえず「間違った!」と落ち込まず、「違った!」と驚いてみることで、ミスだと思っていたことがミスでなくなったりもします。
こんなふうにミスをとらえ、楽しんで生かせる人が、究極の「仕事マスター」かもしれません。
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