仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方

shigotomisu_m仕事のミスを「記憶」という切り口からその原因と基本対策、さらにはマスターとなるための道までを解説。

具体的なノウハウはもちろん、仕事のミスをもたらしているわれわれの脳、特に記憶の仕組みを理解できる、これまでになかった本です。

あなた自身そのものともいえる、あなたの「記憶」。それがあなたの仕事、さらには人生にどのような影響を与えているのか?これをちゃんと知っているか知らないかで、仕事も人生も大きく変化します。

仕事のミスを減らす、なくすだけではなく、あなた自身を見つめなおし、仕事、人生に大きな変革をもたらします。

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著者: 宇都出雅巳
出版社: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
発売日: 2016/8/12

目次

1章 メモリーミス

メモリーミスが起きる原因

– 1日経つと覚えたことの3割しか覚えていない
– メモリーミスの主犯格 「ワーキングメモリ」
– ワーキングメモリの容量は思いのほか小さい
– 注意(アテンション)とワーキングメモリの関係
– 「よし覚えた!」は大きな錯覚
– ワーキングメモリの容量はトレーニングで増やせるのか?
– 経験・知識を増やしてワーキングメモリを使わない工夫を
– 「忘れない」ではなく忘れる前提に立つ

メモリーミスの基本対策

– 新人が「メモをとる」ことを叩き込まれるわけ
– メモ術を選ぶ基準は「一番、気楽にできそうなもの」
– おすすめの超シンプルなメモ術
– 研修ではメモをすべきか、集中すべきか
– 「メモ」はメモだけとは限らない 「外部記憶補助」を使え
– 短い言葉ほどワーキングメモリは節約できる
– なぜ棋士は棋譜を覚えているのか
– 経験を積むほど記憶は簡単になる
– 知識の習得には読書が効果的
– 大雑把で曖昧な記憶を活用せよ!
– 「あの書類はどこにいった?」を防ぐ方法

メモリーマスターへの道

– メモリーマスターへの2つの道 
– 「記憶術」と「印象づけ」
– 記憶術の基本①「場所」を活用する
– 記憶術の基本②イメージに変換する
– 記憶術の王道「場所法」
– 忘れやすいが重要性も高い「名前」の超簡単な覚え方
– キーナンバーに絞って覚える
– 日本の面積は「サメに乗ったマラソンランナー」

2章 アテンションミス

アテンションミスが起きる原因

– わずかなミスが命取り
– 人はちゃんと見ているようで見てていない
– 世界を見ているのは「眼」ではなく「脳」
– ハーバード大学発の実験動画
– アテンションが増えるとワーキングメモリが圧迫される
– 注意を向けないためにも注意が必要
– 「不安」や「心配」があなたの注意を奪っている

アテンションミスの基本対策

– 基本対策は「がんばらないこと」
– がんばらないための万能薬
– フレームワークで注意を動かせ
– 単純な作業に慣れると注意力は増す
– クルマの運転をしながら会話できますか?
– 注意のムダ遣いを減らす方法
– 見直す癖をつける
– チェックリストのススメ
– 注意の方向を変える
– TO DOリストを作る
– 「すぐやる」がワーキングメモリを解放する
– 未完了事項を完了させる

アテンションマスターへの道

– マルチタスクかシングルタスクか?
– 「ゾーン」「フロー」がアテンションマスターへの道
– ゾーンに入る6つの方法
– ゾーンに入る方法① ルーチンを決める
– ゾーンに入る方法② 集中しやすい環境に身をおく
– ゾーンに入る方法③ やる意義を明確にする
– ゾーンに入る方法④ やることを具体的に明確にする
– ゾーンに入る方法⑤ 仕事の難易度を調整する
– ゾーンに入る方法⑥ 似たタスクをまとめる

3章 コミュニケーションミス

コミュニケーションミスが起きる原因

– 伝えても伝わっていない・ちゃんと聞いても聞いていない
– コミュニケーションはキャッチボールではない
– 勝手に思い出している記憶 = 潜在記憶
– 潜在記憶がもたらすプライミング効果とは?
– 記憶は箱のなかではなく、ネットワーク上にある
– コミュニケーションのズレは必ず起こっている
– 同じ記憶を共有していればうまくいく
– 「苦手な相手」を作り出すのは記憶の仕業

コミュニケーションミスの基本対策

– 勘違いしようのないレベルまで具体化する
– 「意識の矢印」を相手の記憶に向ける
– 深く相手の記憶に切り込みたいならシンプルな質問を心がける
– コミュニケーションミスはアテンションミス
– 知識・経験がある人ほど要注意!
– すぐれた経営者、セールスは「意識の矢印」を相手に向けている
– 「意識の矢印」を相手に向ける究極のコツとは?
– 復唱によって理解度を確認してみる
– 会話を共有しながら記録に残す
– 対面のコミュニケーションにこだわる

コミュニケーションマスターへの道

– 「答え」より「応え」を聞く
– 「応え」をとらえられれば一気にコミュニケーションの幅が広がる
– 質問者の気配を消すぐらいに意識の矢印を相手に向け続けよう
– 「会話泥棒」になっていませんか?
– 記憶の奥深くに入りこむ「高確率セールス」の手法
– 沈黙を埋めるな!それは重要な「応え」だ
– 「事柄」中心では時間のわりには話が深まらない
– 主語を相手に切り替える
– 「人」の6つの階層を意識せよ

4章 ジャッジメントミス

ジャッジメントミスが起きる原因

– 脳には2種類の思考回路が存在する
– 脳が勝手に答えを出す「速い思考」
– じっくり考える「遅い思考」
– なぜ自分の判断に後悔することがあるのか?
– 一つの言葉が「速い思考」の結果を左右する
– 感情的になると「遅い思考」の検証ができなくなる
– あなたと先輩・上司の評価基準は同じではない
– 記憶の鮮明度も判断を誤らせる
– 考えれば考えるほど、間違っていく……
– 最大のジャッジメントミスとは?

ジャッジメントミスの基本対策

– まずは評価基準のズレをなくす
– 「ホウレンソウ」が重要なわけ
– 「意識の矢印」がジャッジメントミスをなくす
– 売れるセールスはお客様の評価基準を押さえる
– 感情が「速い思考」を暴走させる
– 経験・知識がなくても冷静でいるには?
– 「事実」と「意見」を分けて考える
– 潜在記憶のワナから逃れるには?
– 恐怖のメカニズム「真実性の錯覚」
– ジャッジメントミスのジレンマから抜け出すには
– 組織として自らに突っ込みを入れる
– ジャッジメントミスを認めることがジャッジメントミスを減らしていく

ジャッジメントマスターへの道

– 「速い思考」を鍛えると「直観」になる
– ディープラーニングは「速い思考」の質を上げる
– プロの知恵は「遅い思考」より「速い思考」に表れる
– 経験を積む
– われわれは人工知能に勝てるのか?
– 未来はわからない・ニセのパターンにだまされるな!
– 人はすべての事象に物語を見出す
– 直観を鍛えつつ、断定的な予測にはまらない

はじめに

「あっ、すっかり忘れていた!」
「おっと、うっかり見落としていた……」
「そうなんですか!? 勘違いしていました」
「なんで自分はあのときハンコを押したんだろう?」

これまであなたは仕事でどんなミスをしたことがありますか?
またはどんな失敗をしかけたことがありますか?

ある人材情報サイトが行ったアンケート調査では、「職場で上司に怒られると焦った失敗ランキング(男性編)」の上位は以下のようになっています。

1位 頼まれていた仕事をすっかり忘れていた 24・8%
2位 電話の取り次ぎメモを書き残すのを忘れた 16・8%
3位 会議中眠ってしまい、手に持っていた資料やペンを落としてしまった 15・9%
4位 上司あての電話をかけてきた相手の名前を聞き忘れた or 聞き間違えた 14・9%
5位 会議の資料や企画書に誤字があった 11・2%
(複数回答/対象:男性214名/2011年マイナビ調べ)

調査結果の1位、2位は物事を忘れるミスでした。仕事ではたくさんの情報がひっきりなしにやりとりされますから、このミスはだれもが経験したことがあると思います。

5位の見落としミスは、資料をたくさん作る仕事をしている人や膨大なデータを扱う職種の人に多いかもしれません。なお、「女性編」でも、忘れるミスが上位を占めています。

そのほか、仕事ではコミュニケーションが欠かせませんから、その過程で「伝わっていない」「聞いていない」といったミスもよく起きます。またはマネジャーや部門長、経営者など意思決定に関わる仕事であれば、判断を間違えるミスで苦い思いをしたことがある人も多いと思います。

ところでこれらのミスが起きてしまうのは、あなたの記憶力や注意力、コミュニケーション力、あるいは判断力が、低いからではありません。

実はそもそもわれわれの脳自体がミスを起こしやすいメカニズムになっているのです。

しかもそれは、「忘れた!」というミスに限らず、そのほかのミスも脳の「記憶」にほとんどの原因があります。あなたはそのことを知らないがために、ミスが起きてしまっているだけなのです。

「経験が少ない、または能力が足りないからミスをするだけでは?」という指摘もあるでしょう。たしかにそれもありますが、必ずしもそうとは限らないのです。

むしろ経験が豊富、または能力があるからこそ犯しやすいミスもあります。中堅やベテランになれば自然とミスが減るわけではありません。逆に増えることもあるのです。

人は自分の脳を過信しすぎかもしれません。
たとえば、あなたは自分の脳がいかに忘れやすいかを知っていますか?
また記憶は固定化されたものではなく、常に変化していることを知っていますか?

もしくはあなたが、「すべてをしっかり見ている(聞いている)」と思っていても、実際にはあなたが見たい(聞きたい)ように見て(聞いて)いることを自覚していますか?

もっと言えば「完全に自立した自分」などありえず、「自分の判断」というものは、実は夢物語にすぎないことを知っているでしょうか?

脳は思いのほか頼りになりません。その脳に対して知らず知らずに(悪)影響を与えているのがあなたの記憶であるということが、最近の脳科学、認知科学の研究で急速に明らかになってきました。

こうした事実を知らないままだと、今後も記憶の仕業でミスを犯す危険があります。いくら記憶力や注意力、コミュニケーション力、判断力を鍛えようと思っても、脳のメカニズムを知らずにがんばっていたら、ほとんど効果はないのです。

少し驚かせてしまいましたが、逆に言えばあなたが脳のメカニズムを正しく理解し、それを踏まえたうえでミスが起こらないような対策を打ちさえすれば、ミスのほとんどは防げるということです。

本書は仕事のミスを以下の4つにわけ、それぞれのミスが起こるメカニズムと、ミスを防ぐ基本対策を解説していきます。

① メモリーミス(忘れた!)
② アテンションミス(見落とした!)
③ コミュニケーションミス(伝わっていない! 聞いていない!)
④ ジャッジメントミス(判断を間違えた!)

さらに、単にミスをなくす基本対策だけでなく、上司や同僚、取引先から「すごい!」と言われるための応用編として、マスターへの道も用意しました。

この本は、とくに画期的な仕事術を紹介する本ではありません。

これまでさまざまなビジネス書で紹介されてきた王道テクニックや、上司や先輩から耳にタコができるほど指摘されてきたアドバイス。それらがいかに脳のメカニズム上、有意義なことであるかを説明し、これまで以上に納得していただいて、「理解」だけではなく「実践」してもらうことを目的としています。

さらに言えば、本書を通じて仕事のミスと向き合うことで、「本当のあなた」と向き合うきっかけになってほしいと願っています。
ぜひ、新たな出会いを楽しんでください。

2016年夏 宇都出雅巳

おわりに

本書を通してわれわれの脳がいかにミスを起こしやすいか、そして、意識のする、しないにかかわらず、常にミスを起こしていることを見てきました。

いま、あなたは仕事のミスについてどのような感想をお持ちでしょうか?

「絶対なくさなければならない」という気持ちから、「なくせないんだ」という気持ちになっていれば、本書の目的は達成されたと言っていいでしょう。

「じゃあこの本のタイトルは嘘なの?」と思われるかもしれません。

でも「ミスはなくせない」という事実を受け入れることが、仕事のミスをなくすための唯一の道なのです。

だれもミスを起こしたいと思っている人はいません。また、ミスを起こしている最中に、「私はミスを起こしている」と思っている人もいません。

仮に「間違っているけれど、これでいこう」と思っている人も、そうやるとことが正しいと思っているわけです。

「ミスした!」と気づくのは、いつも後になってからです。

今起こしているミスが何であれ、自分自身はそのことに気づかないというのが、ミスの厄介なところです(他人のミスはよく見えるのですが……)。だとしたらミスはしないと信じ込むより、ミスはするものだと素直に認めればいいのです。

われわれは世の中が不確実で予測不可能なことをよく知っているのかもしれません。
だからこそ確実なものにすがりたくなり、すべてわかっていると思いたくなる。
確信をもって断言してくれる人についていきたくなる。
ミスを認めず、自分の正しさを信じたくなる。

変化が激しく、多様さが増すなかで、それはますます強まっている気がします。しかし、ミスを認めないとそれはさらに大きなミスとなって跳ね返ってきます。そしてあなた自身、薄々その事実に気づいていたかもしれません。

本書では脳のメカニズムにまでさかのぼって4つのミスについて徹底的に向き合ってもらいました。本書をちゃんと読んだ方なら、「ミスはなくせない」とミスを受けいれて、仕事のミスを絶対なくすためのスタートラインに立たれたはずです。

最後に、これからミスをなくそうと取り組んでいく過程で、ミスが起きたときにぜひ考えてもらいたいことがあります。そのミスは「間違い」なのか、「違い」なのか?

ミスは自分が想定したものとの「違い」が生じたときに発生します。もちろんそのなかには避けなければならない「間違い」もありますが、新たな可能性の扉を開く「違い」もあるはずです。

「失敗は成功の母」
「失敗などない、そこには学びがあるだけだ」

という言葉に象徴されるように未来につながる気づきがあるかもしれません。

また「みんなちがって、みんないい」という詩の一節もありますが、そこには協力、協創の可能性が見えるかもしれません。

とりあえず「間違った!」と落ち込まず、「違った!」と驚いてみることで、ミスだと思っていたことがミスでなくなったりもします。

こんなふうにミスをとらえ、楽しんで生かせる人が、究極の「仕事マスター」かもしれません。

宇都出雅巳

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